ECサイトで売上を伸ばすには、商品数を増やすだけでは不十分です。
ユーザーが欲しい商品に迷わずたどり着ける状態を作る必要があります。
どれだけ良い商品を扱っていても、検索結果に出てこなければ購入されません。
そこで重要になるのが、テキスト・画像・音声・自然言語などを組み合わせて商品を探せる「マルチモーダル検索」です。
この記事では、ECサイトの商品発見率を高めるために、マルチモーダル検索をどのように活用すればよいのかを実務目線で解説します。

マルチモーダル検索とは?
マルチモーダル検索とは、複数の情報形式を組み合わせて行う検索方法です。
従来のECサイトでは、ユーザーが検索窓にキーワードを入力して商品を探す方法が一般的でした。
しかし、現在の検索行動はそれだけではありません。
たとえば、次のような探し方があります。
・画像をアップロードして似た商品を探す
・スマートフォンの音声入力で商品を探す
・「通勤に使える軽い黒いバッグ」のように自然な文章で探す
・写真とテキストを組み合わせて商品を絞り込む
・過去の閲覧履歴や購入履歴から関連商品を提案してもらう
このように、ユーザーは必ずしも正確な商品名や型番を知っているわけではありません。
むしろ「こんな感じの商品が欲しい」という曖昧な状態から検索を始めることが多いです。
マルチモーダル検索は、その曖昧なニーズを拾い上げ、ユーザーに合った商品候補を提示するための仕組みです。
なぜECサイトで商品発見率が重要なのか
商品発見率とは、ユーザーが探している商品、または欲しいと思える商品にたどり着ける確率のことです。
商品発見率が低いECサイトでは、次のような問題が起こります。
・検索しても商品が出てこない
・関係のない商品ばかり表示される
・カテゴリが分かりにくい
・絞り込み条件が少ない
・商品名や説明文に必要な情報が不足している
・ユーザーが途中で離脱する
これは売上機会の損失に直結します。
ユーザーは、商品を探すために長時間サイト内を回遊してくれるとは限りません。
検索結果に満足できなければ、すぐに競合サイトへ移動します。
つまり、ECサイトにおける検索改善は単なる便利機能ではありません。
売上、回遊率、購入率、ブランド印象に関わる重要な改善施策です。
マルチモーダル検索が必要とされる背景
マルチモーダル検索が必要とされる理由は、ユーザーの検索行動が変化しているからです。
以前は「商品名」「ブランド名」「型番」などを入力して検索する行動が中心でした。
しかし現在は、スマートフォン利用が当たり前になり、画像検索や音声入力も一般的になっています。
特にファッション、インテリア、雑貨、コスメ、食品、家電などのジャンルでは、ユーザーが言葉だけで欲しい商品を表現しにくいケースがあります。
たとえば、ファッション商品では「ゆったりしているけれど、だらしなく見えない服」のような検索ニーズがあります。
インテリア商品では「北欧風で白い部屋に合う小さめのテーブル」のような探し方もあります。
このような検索意図は、単純なキーワード一致だけでは拾いきれません。
そのため、商品画像、商品説明文、属性タグ、レビュー、カテゴリ情報、検索ログなどを組み合わせて、ユーザーの意図に近い商品を表示する設計が必要になります。
マルチモーダル検索最適化で改善すべき3つのポイント
1. 入力方法を増やす
最初に見直すべきなのは、ユーザーが商品を探すための入力方法です。
テキスト検索だけに頼っていると、ユーザーの検索行動を十分に拾えません。
画像検索、音声入力、自然言語検索などに対応することで、商品を探すハードルを下げられます。
特にスマートフォンでは、長いキーワードを入力するのが面倒です。
そのため、画像から探す、音声で探す、候補キーワードをタップして探すといった導線があると、検索体験は改善しやすくなります。
ただし、いきなりすべての機能を導入する必要はありません。
まずは検索窓の使いやすさ、候補キーワードの表示、カテゴリ導線、絞り込み条件の改善から始めるだけでも効果があります。
2. 商品データを整理する
マルチモーダル検索を機能させるには、商品データの整備が欠かせません。
検索精度が低いECサイトでは、商品そのものが悪いのではなく、商品情報の登録方法に問題があるケースが多いです。
たとえば、バッグの商品であれば、次のような情報を整理しておく必要があります。
・色
・素材
・サイズ
・重さ
・容量
・用途
・対象シーン
・機能
・テイスト
・対象ユーザー
・関連キーワード
「黒」「軽量」「A4対応」「通勤向け」「防水」「きれいめ」「女性向け」などの情報が正しく登録されていれば、ユーザーの曖昧な検索にも対応しやすくなります。
逆に、商品名だけしか登録されていない場合、検索エンジンもサイト内検索も商品内容を正しく理解できません。
ECサイトの検索改善では、まず商品データの質を上げることが重要です。
3. 自然言語検索に対応する
自然言語検索とは、ユーザーが普段の会話に近い文章で商品を探す検索方法です。
たとえば、次のような検索です。
・雨の日でも使える通勤バッグ
・30代女性に合う上品なワンピース
・一人暮らしの部屋に置ける小さめのソファ
・プレゼント向けの高級感があるお菓子
・初心者でも使いやすいコーヒーメーカー
このような検索に対応するには、商品説明文を単なるスペックの羅列で終わらせないことが大切です。
悪い例は次のような説明です。
「ナイロン製バッグ。黒。A4対応。軽量。」
これだけでは、ユーザーの利用シーンが伝わりません。
改善例は次の通りです。
「軽量でA4書類が入るため、毎日の通勤や営業用バッグとして使いやすい黒のナイロンバッグです。雨の日でも扱いやすく、きれいめな服装にも合わせやすいデザインです。」
このように、商品の特徴、使用シーン、悩みの解決、対象ユーザーを文章内に入れることで、自然言語検索にも対応しやすくなります。
商品画像の最適化も重要
マルチモーダル検索では、商品画像の質も重要です。
画像検索では、商品写真そのものが検索対象になります。
そのため、画像が暗い、背景がごちゃごちゃしている、商品が小さく写っている、別の商品と一緒に写りすぎていると、正しく認識されにくくなります。
商品画像を改善する際は、次の点を意識してください。
・商品全体が分かる画像を用意する
・正面、横、背面、使用シーンの画像を用意する
・背景をシンプルにする
・色や素材感が分かる写真を使う
・画像のファイル名に商品内容を入れる
・alt属性に画像の内容を分かりやすく書く
たとえば、ファイル名が「IMG_1234.jpg」のままでは内容が伝わりません。
「black-lightweight-business-bag.jpg」のように、商品内容が分かる名前にする方が適切です。
alt属性も同じです。
悪い例:
「バッグ」
良い例:
「A4書類が入る黒の軽量ビジネスバッグ」
このように設定することで、検索エンジンにもユーザーにも画像内容が伝わりやすくなります。
構造化データを設定する
ECサイトでは、商品ページに構造化データを設定することも重要です。
構造化データとは、検索エンジンに商品情報を正確に伝えるための記述です。
商品名、価格、在庫状況、レビュー、ブランド、画像などの情報を整理して伝えることで、検索結果で商品情報が表示されやすくなります。
ECサイトで特に確認したい項目は次の通りです。
・商品名
・商品画像
・価格
・在庫状況
・レビュー評価
・ブランド名
・商品説明
・送料情報
・返品条件
構造化データは、検索順位を直接上げる魔法の設定ではありません。
しかし、検索エンジンが商品情報を理解しやすくなるため、ECサイトでは必ず確認すべき基本施策です。
レコメンド機能と組み合わせる
マルチモーダル検索は、レコメンド機能と組み合わせることで効果を高めやすくなります。
ユーザーが検索した商品だけを表示するのではなく、関連商品や代替商品も提示することで、購入の選択肢を広げられます。
たとえば、次のような表示が考えられます。
・この商品を見た人はこちらも見ています
・同じ色の商品
・同じ用途の商品
・価格帯が近い商品
・セット購入されやすい商品
・在庫切れ商品の代替商品
特にECサイトでは、ユーザーが最初に検索した商品をそのまま購入するとは限りません。
比較しながら検討するユーザーも多いため、関連商品への導線は重要です。
ただし、関連性の低い商品を大量に表示すると逆効果です。
レコメンドは「売りたい商品」ではなく、「ユーザーの目的に近い商品」を基準に設計しましょう。
今日からできる改善ステップ
ステップ1:サイト内検索ログを確認する
まずは、現在のサイト内検索でどのようなキーワードが使われているかを確認します。
検索ログを分析すると、ユーザーが実際にどのような言葉で商品を探しているのかが分かります。
検索回数が多い言葉、検索結果が0件になる言葉、検索後に離脱されている言葉を確認することで、商品名・タグ・カテゴリ・説明文の改善点が見えてきます。
検索ログを活用した改善方法については、関連記事の検索ログ活用でCVR向上|EC売上を伸ばす実践方法でも詳しく解説しています。
特に見るべきなのは、次の項目です。
・検索回数が多いキーワード
・検索結果が0件になっているキーワード
・検索後に離脱されているキーワード
・購入につながっているキーワード
・表記ゆれが多いキーワード
たとえば、「リュック」と「バックパック」、「スニーカー」と「運動靴」、「ネイビー」と「紺」など、ユーザーはさまざまな言葉で検索します。
表記ゆれに対応できていない場合、本来表示できる商品が検索結果に出ていない可能性があります。
ステップ2:検索結果0件の対策をする
検索結果が0件になる状態は、ECサイトにとって大きな機会損失です。
0件ページをそのまま表示するのではなく、類似キーワードや関連カテゴリへ誘導することが重要です。
また、ユーザーが使う言葉とサイト側の商品登録名がズレている場合は、辞書登録や表記ゆれ対策も必要になります。
検索ゼロ件を減らす具体的な辞書設計については、関連記事の検索ゼロ件対策!EC辞書設計の実践ポイントで詳しく解説しています。
0件ページを改善する際は、次のような対応を行いましょう。
・類似キーワードを提案する
・関連カテゴリへ誘導する
・人気商品を表示する
・表記ゆれを辞書登録する
・別名や略称でも検索できるようにする
・「もしかして〇〇ですか?」を表示する
検索結果が0件でも、ユーザーを完全に行き止まりにしないことが重要です。
ステップ3:商品説明文を検索意図に合わせて書き直す
商品説明文は、検索精度を高めるための重要な情報源です。
スペックだけでなく、次の内容を入れてください。
・誰に向いている商品か
・どのような悩みを解決するか
・どんな場面で使うか
・他の商品との違いは何か
・購入前に知りたい注意点は何か
たとえば、単に「軽量バッグ」と書くよりも、「毎日の通勤で荷物が多い人でも使いやすい軽量バッグ」と書く方が、検索意図に合いやすくなります。
ユーザーが実際に検索しそうな言葉を商品説明に自然に含めることが大切です。
ステップ4:画像検索に対応しやすい商品写真を増やす
画像検索を強化するには、商品画像の枚数と質を見直します。
最低限、次の画像を用意しましょう。
・商品単体の画像
・使用シーンの画像
・サイズ感が分かる画像
・素材感が分かるアップ画像
・カラーバリエーション画像
・収納力や機能が分かる画像
特にアパレル、雑貨、家具、アクセサリー、食品などは、画像の情報量が購入判断に大きく影響します。
商品写真は単なる装飾ではありません。
検索、比較、購入判断を支える重要なコンテンツです。
ステップ5:小さく導入して効果検証する
マルチモーダル検索は、一度に大規模導入する必要はありません。
まずは、次のような小さな改善から始めるのが現実的です。
・検索窓を目立つ位置に置く
・検索候補を表示する
・検索結果0件ページを改善する
・商品タグを見直す
・画像のalt属性を整える
・人気カテゴリへの導線を増やす
・商品説明文に利用シーンを追加する
検索体験だけでなく、ナビゲーションや購入導線も見直す場合は、関連記事のECユーザビリティ|ユーザーフレンドリーなサイト設計の要点も参考になります。
その後、アクセス数や商品点数が増えてきた段階で、画像検索ツールやAI検索機能の導入を検討するとよいでしょう。
いきなり高額なシステムを導入するよりも、まずはデータ整備と検索導線の改善を優先する方が失敗しにくいです。
マルチモーダル検索に向いているECジャンル
マルチモーダル検索は、特に次のようなジャンルと相性が良いです。
・ファッション
・バッグ、靴、アクセサリー
・家具、インテリア
・コスメ、美容用品
・食品、ギフト
・家電
・雑貨
・アウトドア用品
・ベビー用品
・ペット用品
これらのジャンルは、ユーザーが色、形、雰囲気、用途、利用シーンで商品を探すことが多いです。
たとえば、「商品名は分からないけれど、写真に似た商品が欲しい」「用途に合う商品を提案してほしい」というニーズが発生しやすいため、マルチモーダル検索の効果を出しやすい分野です。
導入時の注意点
マルチモーダル検索は便利な仕組みですが、導入すれば必ず成果が出るわけではありません。
注意すべき点は次の通りです。
・商品データが不足していると検索精度が上がらない
・画像の質が低いと画像検索の効果が出にくい
・検索結果画面が分かりにくいと離脱される
・関連性の低いレコメンドはユーザーの邪魔になる
・導入コストに対して効果検証が不十分だと失敗しやすい
特に重要なのは、機能追加よりも先に商品情報を整えることです。
商品名、説明文、カテゴリ、タグ、画像、構造化データが整理されていない状態で高度な検索機能を入れても、期待した効果は出にくくなります。
まとめ:検索体験の改善は売上改善につながる
マルチモーダル検索は、単なる最新技術ではありません。
ユーザーが欲しい商品にたどり着くための検索体験を改善する考え方です。
ECサイトでは、商品を増やすだけでは売上は安定しません。
ユーザーが商品を見つけやすく、比較しやすく、購入しやすい状態を作る必要があります。
そのためには、次の改善が重要です。
・検索窓を使いやすくする
・商品データを整理する
・商品説明文に利用シーンを入れる
・画像を最適化する
・構造化データを設定する
・検索結果0件を減らす
・関連商品への導線を整える
・小さく導入して効果検証する
マルチモーダル検索の本質は、ユーザーの曖昧なニーズを理解し、最適な商品に導くことです。
まずは高度なAI機能を導入する前に、商品情報、画像、タグ、検索導線を見直しましょう。
この基礎改善ができているECサイトほど、マルチモーダル検索の効果を高めやすくなります。
著者の個人の意見
実務上、検索改善で成果が出やすいECサイトには共通点があります。
それは、商品データが丁寧に整理されていて、ユーザーの探し方を具体的に想定していることです。
マルチモーダル検索という言葉だけを見ると難しく感じますが、最初にやるべきことはシンプルです。
商品名、説明文、画像、タグ、カテゴリを見直し、ユーザーが自然な言葉や画像から商品を探しやすい状態を作ることです。
大規模なシステム導入よりも、まずは検索結果0件を減らすこと、商品説明に利用シーンを入れること、画像情報を整えることから始めるべきです。
小さな改善の積み重ねが、結果的に商品発見率と売上の改善につながります。