
メタバースECの事例を見るときは、仮想空間の豪華さや話題性だけで成功を判断しないことが重要です。
企業によって、メタバースを使う目的は異なります。
ブランドの世界観を体験してもらう事例もあれば、ゲームやコミュニティで顧客との接点を作る事例、ARで購入前の不安を減らす事例もあります。
そのため、事例から学ぶときは「どの技術を使ったか」だけでなく、誰のどの問題を解決し、商品やECサイトへどのようにつなげたかを確認する必要があります。
大企業と同じ規模の仮想空間を作っても、集客、運用、購入導線を維持できなければ、自店の成果にはつながりません。
一方、1商品の3D表示、短期間のオンライン展示、購入者向けイベントなど、事例の一部分だけを小さく取り入れることは可能です。
この記事では、Nike、Gucci、Metaverse Fashion Week、IKEAの4事例を、目的、体験内容、ECとの接続、小規模ショップへの応用に分けて分析します。
事例をそのまま真似するのではなく、自店で試すべき要素を見つけるために活用してください。
- メタバースEC事例は目的と購入導線に分けて分析する
- ブランド体験と直接販売は同じ成果指標で評価しない
- ARと仮想店舗では解決する問題が異なる
- 大企業の空間規模ではなく仕組みを参考にする
- 体験から商品ページへ移動できる導線を用意する
- スマートフォン利用と表示速度を優先する
- 滞在時間だけでなく商品閲覧・購入まで測定する
- 最初は1商品・1目的・短期間で検証する
メタバースECとは
メタバースECとは、仮想空間、アバター、3D商品、AR、VR、オンラインイベント、デジタルアイテムなどを、商品販売やブランド体験と組み合わせる取り組みです。
ただし、ARによる家具配置と、複数の利用者が参加する仮想店舗では、技術も目的も異なります。
| 形式 | 主な体験 | ECでの役割 |
|---|---|---|
| 仮想ブランド空間 | 空間を歩き、ゲームや展示を体験する | 認知、世界観、コミュニティ |
| バーチャルイベント | 発表会、展示、交流へ参加する | 新商品紹介、話題化、限定販売 |
| AR | 現実空間へ商品を重ねる | サイズ、配置、色などの確認 |
| 3D商品表示 | 商品を回転・拡大して確認する | 形状や細部の理解 |
| デジタル商品 | アバターアイテムや限定特典を利用する | 収益、会員特典、ブランド接点 |
ブランド認知を目的とした仮想空間と、購入前の不安解消を目的としたARでは、確認すべきKPIが異なります。
メタバースEC事例を見る6つの視点
事例を自店へ応用するときは、次の6項目に分けて確認します。
| 分析項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 目的 | 認知、商品理解、販売、交流のどれを狙ったか |
| 対象者 | 誰に参加してもらう体験だったか |
| 参加理由 | 限定性、ゲーム、展示、試着など何があったか |
| 商品との接続 | 商品情報、デジタル商品、実物販売へどうつないだか |
| 操作環境 | 端末、アプリ、アカウントなどの負担は何か |
| 測定 | 参加、商品接触、遷移、購入をどう確認するか |
公式情報から実施内容は確認できても、費用、購入率、利益などが公開されていない事例があります。
確認できない成果を「売上向上」「LTV向上」と断定しないことが重要です。
メタバースECの企業事例4選
| 事例 | 主な形式 | 主な目的 | 学べること |
|---|---|---|---|
| Nike・RTFKT | ゲーム、デジタル商品、コミュニティ | 文化・ゲーム領域とのブランド接点 | 物理商品とデジタル価値の連動 |
| Gucci Garden | 期間限定の仮想ギャラリー | 世界観の体験と限定性 | 空間演出とデジタルアイテム |
| Metaverse Fashion Week | 複数ブランド参加イベント | 展示、交流、商品発見 | イベントと販売導線の設計 |
| IKEA Place | AR家具配置 | 購入前のサイズ・配置確認 | 顧客課題から技術を選ぶ方法 |
事例1.Nike・RTFKT|物理商品とデジタル価値を組み合わせる
Nikeは、ゲーム、文化、デジタル商品との接点を広げる取り組みを行っています。
2021年には、ゲームエンジン、NFT、ブロックチェーン認証、ARなどを利用して仮想商品や体験を提供していたRTFKTの買収を発表しました。
この事例で注目すべきなのは、通常のオンラインショップをそのまま仮想空間へ移したのではない点です。
実物商品の販売だけでなく、ゲーム文化、デジタル収集品、クリエイターコミュニティとの関係をブランド活動へ取り込んでいます。
学べるポイント
商品を並べるだけでなく、ゲームや創作文化へブランドを接続しています。
実物を模倣するだけでなく、仮想空間で利用する価値を作っています。
一方向の広告ではなく、利用者やクリエイターとの関係を重視しています。
実物商品とデジタル体験を別々に考えず、組み合わせる余地を作っています。
小規模ECへの応用
- 実物商品購入者へ限定デジタルコンテンツを提供する
- 購入者限定のオンラインイベントを開く
- 顧客が投稿・制作できる参加企画を行う
- 新商品のデザイン案へ投票してもらう
- ブランドに関係するクリエイターと共同企画する
- 会員向けのデジタル特典を試す
顧客へ提供する価値を先に決め、所有証明、譲渡、外部サービス連携が必要な場合にだけ技術を検討してください。
事例2.Gucci Garden|世界観を期間限定の仮想体験にする
Gucci Gardenは、GucciがRoblox上で公開したインタラクティブな仮想ギャラリーです。
公式ページでは、2021年5月17日から31日までの2週間、誰でも参加できる空間として案内されました。
利用者は展示空間を移動し、アバターが展示の要素を取り込む体験や、限定アバターアイテムを扱うショップを利用できました。
この事例は、通常の商品一覧を再現するのではなく、広告表現やブランドの創造性を、利用者が探索する空間へ変換しています。
学べるポイント
- ブランドの広告や歴史を空間として再構成している
- 期間限定にして参加する理由を作っている
- 受け身で見るだけでなく探索できる
- アバターの変化によって個別体験を作っている
- 空間専用のデジタルアイテムを用意している
小規模ECへの応用
季節商品、新商品、周年企画など、開催理由がある期間に限定します。
素材、制作工程、地域、作り手など、商品ページだけでは伝わりにくい内容を展示します。
探索、投票、質問、収集など、見るだけで終わらない要素を用意します。
展示内容に関連する商品を、価格や在庫を確認できる既存ECへつなげます。
動画、360度展示、オンライン制作見学、期間限定LPなど、運用できる方法から始められます。
事例3.Metaverse Fashion Week|イベントと商品発見を組み合わせる
Decentralandでは、2022年3月24日から27日にMetaverse Fashion Weekが開催されました。
仮想空間上でランウェイ、展示、パーティーなどが行われ、複数のブランドやクリエイターが参加するイベントとして展開されました。
単独ブランドの仮想店舗とは異なり、複数の参加者が集まるイベント自体が集客の入口になります。
一方、参加ブランドや展示が多いほど、利用者が商品や購入方法を見つけにくくなる可能性もあります。
学べるポイント
- 単独では集めにくい利用者へ複数ブランドで接触できる
- 商品展示だけでなく、発表会や交流を組み合わせている
- 開催日時を決めることで参加理由を作っている
- デジタル商品と実物商品の両方を扱える
- イベント後の購入導線が重要になる
小規模ECへの応用
- 同じテーマを持つショップと合同展示を行う
- 新商品発表をライブ配信する
- 期間限定のオンライン展示ページを作る
- 作り手による商品説明会を開く
- 参加者限定の商品や特典を用意する
- イベント後にも商品を確認できるページを残す
対象顧客が参加したか、商品へ関心を持ったか、商品ページへ移動したかを確認してください。
事例4.IKEA Place|ARで購入前の配置不安を減らす
IKEA Placeは、家具の3Dモデルをスマートフォン上で自宅の部屋へ配置できるARアプリとして発表されました。
利用者は、家具を購入する前に、部屋での大きさや配置イメージを確認できます。
この事例がほかの3例と異なるのは、ブランド空間への参加よりも、家具EC特有の購入前課題を解決することへ重点がある点です。
解決しようとした購入前の問題
- 部屋へ置ける大きさか分からない
- ほかの家具と調和するか分からない
- 色や形が空間に合うか分からない
- 配置後の動線を想像しにくい
- 商品写真だけでは立体感を把握しにくい
小規模ECへの応用
サイズ、配置、色など、購入前の不安が多い商品を特定します。
AR導入前に、使用場面、人物、一般的な物との比較画像を追加します。
比較的導入しやすい方法で、商品理解が改善するか確認します。
返品や問い合わせが多い商品に限定して検証します。
AR利用、商品閲覧、カート追加、購入、返品を比較します。
端末、カメラ、部屋の計測条件によって表示が異なる可能性があります。正式な寸法、重量、設置条件も併記してください。
4事例の違いを比較する
| 事例 | 顧客課題・目的 | 主な接点 | 優先KPI |
|---|---|---|---|
| Nike・RTFKT | ゲーム・デジタル文化との関係形成 | デジタル商品、コミュニティ | 利用、保有、再参加、商品接触 |
| Gucci Garden | ブランド世界観の体験 | 仮想ギャラリー、限定アイテム | 参加、完了、再訪、ブランド接触 |
| Metaverse Fashion Week | イベントへの集客と商品発見 | 展示、ランウェイ、複数ブランド | 参加、展示接触、商品遷移 |
| IKEA Place | 購入前のサイズ・配置不安 | ARと商品情報 | AR利用、カート、購入、返品 |
ブランド認知を目的とする大規模空間より、サイズ、色、配置、使い方など、具体的な購入障壁を解決する施策の方が成果を測定しやすくなります。
事例から学べる共通点
1.体験する理由がある
仮想空間を作っただけでは、利用者は参加しません。
限定展示、ゲーム、イベント、商品確認など、通常の商品ページにはない理由が必要です。
2.ブランドや商品との関係が明確である
話題性のある技術を追加するのではなく、ブランドの世界観や商品の購入課題と結び付いています。
3.見るだけでなく行動できる
探索、試着、配置、収集、交流など、利用者が体験へ参加できる設計になっています。
4.期間や対象が絞られている
Gucci Gardenやイベント型施策では、開催期間を限定し、参加する理由を明確にしています。
5.通常のECとは異なるKPIが必要になる
直接購入だけでなく、体験開始、完了、商品接触、商品ページへの移動などを段階的に確認する必要があります。
自店へ取り入れる事例を選ぶ方法
| 現在の課題 | 参考にする事例 | 小さく試す方法 |
|---|---|---|
| ブランドの世界観が伝わらない | Gucci Garden | 期間限定のオンライン展示 |
| 若い顧客との接点が少ない | Nike・RTFKT | 参加企画、デジタル特典 |
| 新商品の注目を集めたい | Metaverse Fashion Week | 合同発表会、ライブ配信 |
| サイズや配置が伝わらない | IKEA Place | 比較画像、360度表示、AR |
| 商品ページへの遷移が少ない | イベント型事例 | 体験中の購入導線を改善 |
| 運用予算が少ない | 一部分のみ参考 | 動画や限定ページから開始 |
知名度、顧客数、制作費、技術担当者が異なります。目的、対象者、体験機能を分解し、自店で維持できる部分だけを採用してください。
事例をEC売上へつなげる購入導線
体験から商品ページへ移動する際は、利用者に商品を探し直させないことが重要です。
商品名、用途、カテゴリを分かりやすく表示します。
特徴、価格の目安、色、サイズを短く示します。
商品IDと選択内容を引き継いで移動します。
価格、在庫、送料、納期、返品条件を通常の商品ページで確認します。
安全性と運用負担を考慮し、既存ECの購入手続きを利用します。
メタバースEC事例を評価するKPI
| 段階 | 主なKPI | 確認できること |
|---|---|---|
| 認知 | 案内表示数、流入数 | 企画が届いているか |
| 参加 | 体験開始数、開始率 | 参加する理由が伝わったか |
| 利用 | 完了率、離脱箇所、エラー率 | 操作できたか |
| 商品接触 | 商品表示数、選択率 | 商品へ関心が移ったか |
| EC遷移 | 商品ページ遷移率 | 体験が商品検討につながったか |
| 購入 | カート追加率、購入率 | 販売へつながったか |
| 購入後 | 返品率、問い合わせ、再購入 | 購入判断を適切に支援したか |
| 採算 | 粗利益、制作費、運用時間 | 継続可能か |
体験開始率
体験開始率=体験を開始した利用者数÷体験案内を見た利用者数×100
商品ページ遷移率
商品ページ遷移率=体験から商品ページへ移動した利用者数÷体験利用者数×100
体験経由購入率
体験経由購入率=体験後に購入した利用者数÷体験利用者数×100
滞在時間が長い理由は、体験が魅力的だからとは限りません。操作に迷っている可能性もあるため、完了率、商品遷移、アンケートと組み合わせて確認します。
小規模ECが事例を取り入れる7つの手順
ブランド理解、サイズ、配置、新商品の認知など、対象を絞ります。
技術ではなく、解決したい問題が近い事例を選びます。
限定展示、AR配置、投票、デジタル特典などへ分けます。
1商品または1カテゴリだけで試します。
期間限定で公開し、制作費と運用時間の上限を決めます。
開始、完了、商品遷移、購入、問い合わせを記録します。
購入だけでなく、顧客理解、操作性、制作費、更新負担も確認します。
事例を参考にするときの注意点
事例企業の成果を推測しない
参加者数や売上が公開されていない場合は、実施内容と確認できる事実だけを扱います。
ARをメタバースと同一視しない
ARは現実空間へ商品を重ねる技術であり、複数人が仮想空間へ参加するメタバースとは利用方法が異なります。
ブランド認知と購入を同じKPIにしない
世界観の体験では参加や商品接触、購入支援型ARではカートや返品など、目的に合うKPIを選びます。
専用アプリやアカウント登録を増やしすぎない
体験開始までの手続きが多いほど、利用できる顧客が限定されます。
商品ページの弱点を放置しない
体験から移動した先で価格、送料、在庫、返品が分からなければ購入へ進めません。
常設を前提にしない
更新担当者や予算を維持できない場合は、期間限定企画として実施します。
メタバースEC事例の転用チェックリスト
事例の信頼性
- 企業または運営サービスの公式情報を確認した
- 実施期間を確認した
- 確認できる事実と推測を分けた
- 売上や成果を根拠なく断定していない
自店との適合性
- 解決する顧客課題が明確である
- 対象顧客が体験を利用できる
- 商品と技術の相性がある
- 通常の写真や動画では不足する理由がある
購入導線
- 商品名と概要を確認できる
- 既存の商品ページへ移動できる
- 価格と在庫を最新状態で確認できる
- 送料、納期、返品条件が分かる
- 安全なカートと決済を使える
操作性
- スマートフォンで利用できる
- 体験開始までの手続きが少ない
- 操作方法を短時間で理解できる
- 読み込みが失敗した場合の代替表示がある
- 体験しなくても商品を購入できる
効果測定
- 体験開始数を計測できる
- 商品接触を計測できる
- 商品ページへの移動を計測できる
- 購入と返品を確認できる
- 制作費と運用時間を記録している
メタバースEC事例に関するFAQ
メタバースECの代表的な企業事例は何ですか?
Nike・RTFKT、Gucci Garden、Metaverse Fashion Weekなどの仮想体験があります。
購入前支援では、IKEA PlaceのようなAR活用も参考になります。
IKEA PlaceはメタバースECですか?
IKEA Placeは主にARによる家具配置サービスです。
複数人が参加する仮想空間とは異なりますが、デジタル体験とECを組み合わせる事例として参考になります。
大企業の事例を小規模ECでも再現できますか?
同じ規模で再現する必要はありません。
期間限定展示、1商品のAR、購入者向けイベントなど、事例を小さな機能へ分解して試してください。
成功事例と判断する基準は何ですか?
目的によって異なります。
ブランド体験なら参加・商品接触、購入支援なら商品ページ遷移・購入・返品などを確認します。
売上が公開されていない事例も参考になりますか?
実施目的、体験内容、参加方法、商品との接続方法は参考にできます。
ただし、売上向上や利益への効果は、公開情報がなければ判断できません。
小規模ECは何から始めるべきですか?
購入前の問題を1つ選び、写真、動画、360度表示で改善できるかを先に確認してください。
不足する場合に、1商品のARや短期間の仮想展示を検討します。
メタバースECにNFTは必要ですか?
必須ではありません。
通常の会員機能、限定コンテンツ、デジタル特典で実現できる場合もあります。
事例を導入へ移すときの次の手順は何ですか?
目的、対象商品、方式、予算、KPIを決め、対象を限定して試験公開します。
まとめ
- 公式情報で実施内容を確認する
- 事例の目的と対象者を確認する
- ブランド体験と購入支援を分ける
- 自店の顧客課題に近い事例を選ぶ
- 事例を小さな機能へ分解する
- 対象商品と期間を限定する
- 既存の商品ページへ接続する
- 体験開始から購入まで測定する
- 費用と運用負担を含めて継続を判断する
メタバースECの事例から学ぶべきなのは、仮想空間の規模や映像の豪華さではありません。
Nike・RTFKTの事例からは、ゲームやデジタル文化とブランドを接続する考え方を学べます。
Gucci Gardenからは、世界観を期間限定の探索体験へ変える方法を学べます。
Metaverse Fashion Weekからは、複数のブランドや参加者を集めるイベント設計と、商品への導線の重要性を学べます。
IKEA Placeからは、顧客の具体的な購入不安を先に見つけ、その解決に合う技術を選ぶ考え方を学べます。
ただし、これらの企業と小規模ショップでは、知名度、顧客数、予算、技術体制が異なります。
最初は1商品、1目的、短期間へ限定し、通常の商品ページより顧客の判断を助けられたかを確認してください。