ECの在庫管理では、「在庫が少なくなったら発注する」という感覚的な運用を続けていると、 欠品や過剰在庫が発生しやすくなります。
そこで利用したいのが発注点です。 発注点とは、在庫が一定の数量まで減ったときに、 次の商品を発注するための基準となる在庫数です。
発注点は単純に「残り10個になったら注文する」と決めるのではなく、 販売速度・仕入れリードタイム・安全在庫を組み合わせて設定すると、 欠品と在庫過多の両方を抑えやすくなります。
この記事では、小規模ECでも実践しやすいように、 発注点の基本計算から、安全在庫、販売速度、リードタイム、 季節変動、発注量、SKU別の見直し方法まで順番に解説します。
- 発注点は「いつ発注するか」を決める基準
- 基本は「リードタイム中の販売数+安全在庫」で計算する
- 販売速度は直近の実績からSKUごとに確認する
- リードタイムは発注日から販売可能になるまでの日数で考える
- 安全在庫は需要変動や入荷遅延への余裕として設定する
- 季節商品や急成長商品は通常平均だけで判断しない
- 発注点は一度設定して終わりではなく定期的に見直す
ECの発注点とは
発注点とは、在庫がどの数量まで減ったら次の仕入れを行うかを決める基準です。
たとえば発注点を120個に設定した場合、 販売可能在庫が120個まで減った時点で新しい商品を発注します。
重要なのは、発注した商品がすぐに入荷するわけではないことです。
発注してから入荷し、検品を終えて販売可能になるまでにも商品は売れ続けます。 その期間に必要な在庫を残した状態で発注する必要があります。
発注点は、 商品が入荷するまでに売れる数量と 予想外の販売増加や入荷遅延に備える安全在庫 を合わせて設定します。
基本式は次のように考えます。
発注点 = 1日平均販売数 × リードタイム日数 + 安全在庫
発注点を計算する3つの数字
発注点を設定するために、まず次の3つの数字を確認します。
1日、1週間、1か月あたりに何個販売しているかを確認します。 発注点では1日平均販売数へ換算すると計算しやすくなります。
商品を発注してから入荷・検品を終え、 実際に販売可能になるまでの日数です。
販売数の増加や入荷遅延など、 予定外の変化に対応するために追加で持つ在庫です。
| 項目 | 確認する数字 | 役割 |
|---|---|---|
| 販売速度 | 1日平均販売数 | 入荷までに必要な数量を計算 |
| リードタイム | 発注から販売可能までの日数 | 何日分の在庫が必要か計算 |
| 安全在庫 | 予備として確保する数量 | 需要増加・入荷遅延へ対応 |
発注点の基本計算
最も分かりやすい方法は、 1日平均販売数とリードタイムから、 入荷までに必要な在庫を計算する方法です。
発注点 = 1日平均販売数 × リードタイム日数 + 安全在庫
計算例
次の商品を例に計算します。
- 1日平均販売数:20個
- リードタイム:4日
- 安全在庫:40個
リードタイム中に必要な在庫は、
20個 × 4日 = 80個
となります。
さらに安全在庫40個を加えると、
80個 + 40個 = 120個
となるため、この商品の発注点は120個です。
在庫が120個程度まで減った時点で発注することで、 次の商品が到着するまでの販売分を確保しながら運営できます。
発注点は「この数量まで在庫を減らしてよい」という意味ではなく、 この数量になったら発注を開始する基準です。
発注後も商品は販売されるため、 入荷するまで在庫数はさらに減っていきます。
STEP1|販売速度を計算する
発注点を計算する最初の作業は、 商品がどの程度の速度で売れているかを把握することです。
たとえば30日間で300個販売した場合、 1日平均販売数は次のようになります。
1日平均販売数 = 対象期間の販売数量 ÷ 対象日数
300個 ÷ 30日 = 10個/日
どの期間の販売数を使うか
販売数は、直近30日だけを見る方法もありますが、 商品によっては短期的な変動の影響を強く受けます。
| 期間 | 向いている商品 | 注意点 |
|---|---|---|
| 直近30日 | 販売変化が速い商品 | 短期キャンペーンの影響を受けやすい |
| 直近60日 | 一般的なEC商品 | 直近の変化が少し薄まる |
| 直近90日 | 販売数が安定している商品 | 急な需要変化への反応が遅くなる |
| 前年同時期 | 季節商品 | 前年と市場環境が同じとは限らない |
直近30日の販売速度と90日平均を比較すると、 最近売れ始めているのか、売れ行きが落ちているのかを判断しやすくなります。
たとえば90日平均が1日5個でも、 直近30日が1日9個まで増えている場合は、 5個を基準にすると欠品しやすくなる可能性があります。
STEP2|リードタイムを正しく計算する
リードタイムは、 「仕入先へ注文してから商品が届くまでの日数」だけではありません。
ECで販売できる状態になるまでに必要な作業を含めて考えます。
発注書の作成、仕入先への注文確定などに必要な時間です。
仕入先が商品を準備し、出荷するまでの時間です。
仕入先から自社または倉庫へ商品が届くまでの時間です。
商品到着後の数量確認、検品、ラベル貼付などに必要な時間です。
在庫管理システムへ登録し、ECサイトで販売可能になるまでの時間です。
発注処理+仕入先準備+配送+入荷検品+システム反映 までを含めて考えます。
営業日と暦日に注意する
仕入先から「納期3営業日」と案内されていても、 金曜日に発注した場合は土日を挟むことで、 実際の経過日数が長くなることがあります。
発注点では、自社と仕入先の休業日、 倉庫の入荷可能日なども考慮してください。
STEP3|安全在庫を決める
平均販売数だけで発注点を設定すると、 販売数が一時的に増えたり、 商品の入荷が遅れたりした際に欠品する可能性があります。
そのため、通常必要な数量とは別に安全在庫を設定します。
方法1|日数で安全在庫を設定する
小規模ECで最も使いやすいのは、 「何日分を予備として持つか」を決める方法です。
安全在庫 = 1日平均販売数 × 安全在庫日数
たとえば、
- 1日平均販売数:10個
- 安全在庫:3日分
であれば、
10個 × 3日 = 30個
を安全在庫として確保します。
方法2|販売数と納期の変動から設定する
販売量や納期の変動が大きい商品では、 平均値だけでなく過去の最大値も参考にできます。
実務上の簡易的な考え方として、 次のような方法があります。
安全在庫 = (最大1日販売数 × 最大リードタイム) - (平均1日販売数 × 平均リードタイム)
この方法は簡易的な設定方法です。 販売数のばらつきや求める欠品許容度を統計的に管理する場合は、 標準偏差やサービス水準を使った安全在庫計算も検討します。
安全在庫を増やせば欠品リスクは下がりますが、 在庫金額、保管スペース、滞留在庫リスクは増えます。
「欠品が怖いから多めに持つ」のではなく、 商品の利益率、仕入れ条件、欠品時の影響などを考えて設定しましょう。
発注点を実際に計算してみる
次の3商品を例にすると、 商品ごとに発注点が大きく異なることが分かります。
| 商品 | 1日販売数 | リードタイム | 安全在庫 | 発注点 |
|---|---|---|---|---|
| 商品A | 5個 | 3日 | 10個 | 25個 |
| 商品B | 20個 | 4日 | 40個 | 120個 |
| 商品C | 3個 | 10日 | 15個 | 45個 |
商品Aは販売速度が比較的低く、 リードタイムも短いため発注点は25個です。
商品Bは販売速度が速いため、 4日間のリードタイムでも80個必要になります。 安全在庫40個を加えると発注点は120個です。
商品Cは販売速度自体は低いものの、 リードタイムが10日と長いため、 発注点は45個になります。
売れる数が少ない商品でも、 海外仕入れなどで納期が長ければ早めの発注が必要です。
逆に販売数が多くても、 翌日入荷できる商品なら必要な発注点を低くできる場合があります。
発注点と発注量は分けて考える
発注点を設定すると、 「いつ注文するか」は決まります。
しかし、発注点だけでは 「何個注文するか」は決まりません。
いつ発注するかを決める数字です。
何個仕入れるかを決める数字です。
簡単な発注量の考え方
小規模ECでは、 「何日分・何週間分を補充するか」を基準にすると管理しやすくなります。
たとえば1日10個売れる商品について、 30日分を補充したい場合、
10個 × 30日 = 300個
が一つの発注量の目安になります。
実際には現在庫、入荷予定、最低発注数量、送料、 仕入れ単価、保管スペースなども考慮します。
現在庫ではなく「利用可能な在庫」で判断する
発注点判定では、 倉庫に置かれている数量だけを見ると判断を間違えることがあります。
すでに注文が入っている商品や、 不良品など販売できない在庫が含まれている場合があるためです。
| 在庫 | 内容 | 発注判断 |
|---|---|---|
| 実在庫 | 倉庫に存在する数量 | そのまま判断しない |
| 引当在庫 | 注文済みで確保されている数量 | 販売可能数から除く |
| 販売不可在庫 | 不良・検品待ちなど | 販売可能数から除く |
| 入荷予定在庫 | すでに発注済みの商品 | 重複発注防止のため確認 |
| 販売可能在庫 | 現在販売できる数量 | 発注判断の重要な基準 |
在庫が発注点を下回っていても、 すでに大量の商品を発注済みの場合があります。
発注判断では現在庫だけでなく、 発注残・入荷予定数も確認してください。
季節商品は発注点を固定しない
水着、防寒用品、ギフト商品など、 季節によって販売数が大きく変わる商品では、 年間平均販売数を使うと適切な発注点にならないことがあります。
たとえば年間平均では1日5個でも、 夏には1日30個売れる商品であれば、 5個を基準にすると繁忙期に欠品する可能性があります。
季節商品で確認する数字
- 前年同月の販売数
- 直近30日の販売速度
- 直近7日の販売速度
- セール・広告予定
- イベント・季節需要
- シーズン終了までの日数
売上ピークが過ぎているにもかかわらず、 通常の発注点を維持すると、 シーズン終了後に大量の在庫が残る場合があります。
シーズン後半では、 発注点や発注量を段階的に下げることも検討します。
売上が急増している商品は短期データも確認する
SNS、広告、テレビ紹介、インフルエンサー投稿などによって、 商品の販売速度が急激に変化することがあります。
90日平均だけを使用していると、 急増した需要を発注点へ反映できません。
| 期間 | 1日平均販売数 | 判断例 |
|---|---|---|
| 90日 | 5個 | 通常時の販売速度 |
| 30日 | 9個 | 最近需要が増加 |
| 7日 | 15個 | 急速に販売が伸びている可能性 |
このような場合は、 在庫切れリスクを確認しながら、 一時的に短期平均を重視した発注点へ変更する方法があります。
7日間だけ販売数が急増した場合、 その販売速度が今後も続くとは限りません。
広告、セール、SNS投稿など販売増加の原因を確認し、 過剰発注にならないよう注意してください。
SKUごとに発注点を設定する
サイズや色がある商品では、 商品単位ではなくSKU単位で発注点を設定した方が在庫を管理しやすくなります。
たとえばTシャツ全体では毎月100枚売れていても、 サイズ別では販売速度が大きく異なる場合があります。
| SKU | 月間販売 | 特徴 |
|---|---|---|
| Mサイズ | 50枚 | 売れ筋 |
| Lサイズ | 35枚 | 標準 |
| Sサイズ | 10枚 | 低回転 |
| XLサイズ | 5枚 | 低回転 |
全サイズへ同じ発注点を設定すると、 売れ筋商品は欠品しやすく、 低回転商品は在庫過多になりやすくなります。
商品をABC分類して発注基準を変える
SKU数が増えてきた場合は、 すべての商品を同じ基準で管理する必要はありません。
売上や利益、販売量などに応じて商品を分類し、 管理方法を変える方法があります。
売上・利益への影響が大きい商品。 欠品を避けるため短い間隔で確認します。
一定の販売数がある商品。 通常の発注点ルールで管理します。
販売頻度が低い商品。 安全在庫を増やしすぎず、過剰在庫を防ぎます。
発注点を決めるときによくある失敗
1 感覚だけで発注する
「そろそろ少なくなったから」と担当者の経験だけで判断すると、 担当者によって発注タイミングが変わります。
販売速度とリードタイムを基準に数値化します。
2 すべての商品に同じ発注点を設定する
商品によって販売速度とリードタイムは異なります。
可能であればSKU単位で設定してください。
3 仕入先の出荷日数だけを見る
配送、入荷、検品、システム反映まで含めた 実際の販売可能日を基準にします。
4 安全在庫を多く設定しすぎる
欠品対策だけを優先すると、 在庫金額や滞留在庫が増える可能性があります。
5 発注済み数量を確認しない
入荷予定を確認しないまま再発注すると、 同じ商品を二重に仕入れる可能性があります。
6 発注点を一度設定したまま変更しない
販売速度、仕入先、配送状況、季節需要は変化します。
定期的に実績と発注点を比較して見直します。
発注点を月1回見直す手順
小規模ECであれば、 まず月1回の見直しから始めると運用しやすくなります。
SKUごとの販売速度が上がっているのか、 下がっているのかを確認します。
設定値だけでなく、 最近の発注から入荷まで実際に何日かかっているかを確認します。
欠品したSKUと在庫が増え続けているSKUを抽出します。
欠品が多ければ発注点を早め、 過剰在庫が多ければ安全在庫や発注量を見直します。
「販売増加のため120→150個」のように、 発注点を変更した理由を残します。
発注点管理チェックリスト
販売データ
- SKUごとの販売数を確認できる
- 30日・60日・90日の販売速度を比較している
- 季節性を考慮している
- キャンペーンや広告の影響を確認している
リードタイム
- 発注から出荷までの日数を確認している
- 配送日数を含めている
- 入荷・検品日数を含めている
- 休日による遅延を考慮している
安全在庫
- 需要変動を考慮している
- 仕入れ遅延リスクを考慮している
- 安全在庫を増やしすぎていない
- 商品ごとに基準を変えている
発注判断
- 現在庫だけで判断していない
- 引当在庫を確認している
- 入荷予定在庫を確認している
- すでに発注済みの商品を確認している
見直し
- 発注点を定期的に見直している
- 欠品したSKUを分析している
- 過剰在庫になったSKUを分析している
- 変更した理由を記録している
EC発注点に関するFAQ
在庫がどの数量まで減ったら次の仕入れを行うかを決める基準です。
基本的には、 リードタイム中に販売される数量と安全在庫を合わせて設定します。
基本的な計算方法は 「1日平均販売数 × リードタイム日数 + 安全在庫」です。
ただし、季節変動や販売数の急増がある商品では、 直近の販売速度なども確認して調整します。
すべての商品に共通する日数はありません。
販売数の変動、リードタイムの安定性、 欠品した場合の影響、保管コストなどから商品ごとに決めます。
発注点は「発注を開始する在庫数量」です。
安全在庫は、需要増加や入荷遅延などに備えて持つ予備在庫です。 安全在庫は発注点を計算する要素の一つです。
同じではありません。
発注点は「いつ注文するか」、 発注量は「何個注文するか」を決める数字です。
必ずしもすべての低回転商品へ厳密な発注点を設定する必要はありません。
販売頻度が非常に低い商品では、 定期的に在庫を確認して必要時に発注する方法の方が 運用しやすい場合もあります。
小規模ECでは、まず月1回の確認から始めると管理しやすくなります。
売れ筋商品や季節商品については、 週次など短い間隔で確認することも検討します。
まとめ|発注点は販売速度・リードタイム・安全在庫で決める
ECの発注点を適切に設定すると、 担当者の感覚だけに頼らず、 一定の基準で商品を発注できるようになります。
- SKUごとの販売速度を確認する
- 発注から販売可能になるまでのリードタイムを確認する
- 需要変動と入荷遅延に備えて安全在庫を設定する
- 「販売速度 × リードタイム+安全在庫」で発注点を計算する
- 現在庫・引当在庫・入荷予定を確認して発注する
- 季節性や販売急増があれば数値を調整する
- 実績をもとに定期的に発注点を見直す
最初から複雑な計算を導入する必要はありません。
まずは売れ筋SKUから、 1日平均販売数・リードタイム・安全在庫 の3つを確認し、発注点を設定してみましょう。
その後、欠品した商品や在庫が余った商品を確認しながら、 自社に合った発注基準へ調整していくことが重要です。
